漢方薬と聞くと、「古くさい」ような印象をもたれるかもしれません。確かに、漢方の歴史は古く、古来、中国から伝わり、日本国内で発展してきた日本の伝統医学です。そこには独特の考え方「気・血・水」というものがあり、
気; 目に見えないですが、体の機能全般を動かすエンジンのようなもの
血; 実際に体内に流れる血液でもあり、全身の組織や器官に栄養を与えるもの
水; 体内の水分全体をさします
これらの三つがバランスよく巡っていることを「健康」とし、それを整えるために「漢方」があります。
また、その方の状態を、「体質」「病気の状態」「その方のおられる環境」などをとらえて、「今その方にどういうことが起こり、どういう状態なのか」(証)を把握し、どのような治療戦略がベストか、考えていきます。そのため、同じ病名でも異なる漢方薬を使用したり、違う病名でも、同じ漢方薬を使用することがあり、西洋医学とは大きく異なります。「病気」ではなく、より「人全体」をみる医学であるといえます。
また、漢方には「五行」という体の状態を調べる物差しのようなものがあります。自然界では「木」「火」「土」「金」「水」の5つの物質を使い、物事の性質を分類しますが、これを人体に応用し、「五臓」というふうに考えたのが、「肝」「心」「脾」「肺」「腎」という体を支える各々の役割です。漢方医学は、このようなしっかりした医学大系をもっているのです。
しかし、「そんなハーブみたいなもので本当に効くの?」「漢方って、効くのに時間がかかるでしょ」みたいなお声もよく頂戴いたします。また一度どこかで漢方を一種類内服されて、苦かった。効かなかったので、漢方はいらないです」と非常にもったいないことを言われる方もおられます。今や漢方薬は、「なんとなく体質改善によさそうなものだけを長年にかけて飲んでいく」だけのものではないのです。西洋の薬は、化学合成され、有効成分がほぼ単一ですので、熱や痛みをとったり、血圧を下げるなどひとつひとつの病名に対して強く、早い効果がありますが、逆に効果が強すぎたり、副作用がでたりというデメリットがあります。また、漢方薬は、漢方薬と西洋薬を組み合わせるハイブリッド漢方が両者の「いいとこどり」をできる方法だと思い、診察させていただいております。また昨今は漢方医学の研究が進み、漢方薬に入っている「生薬」(草花やその根、茎、木の皮、実など)の有効成分について化学的研究が進められ、これらがなぜ、どのように効果が出るかなど判明しており、西洋薬的解析も進んでおります。西洋薬では熱を下げることはできますが、冷えを改善し、体を温めてくれるのは漢方薬にしかない効果です。
漢方薬は生薬を組み合わせて作られます。例えば十味敗毒湯は、皮膚科漢方でよく処方、利用されるものですが、柴胡、荊芥、防風、独活、茯苓、桔梗、桜皮(またはボクソク)、センキュウ、生姜、甘草といった10種類の生薬で構成されています。各々、炎症を抑えたり、痛みを減らしたり、化膿を抑えたり、といった特徴があり、それらが合わさって、シナジー効果をもちます。体のバランスをとっていきます。
漢方薬処方の方針として、私個人は、病名処方はいたしません。病名処方とは、たとえば「風邪には葛根湯」と、決められた処方を繰り返すことです。葛根湯が効くタイプの風邪、風邪の時期もありますが、漢方薬はそれだけではありませんし、多くの場合、漢方薬は組み合わせて処方する必要があります。一般の方や、漢方薬学習初期の先生方は、そうやって知ったり、覚えていかれるのはわかりますし、私も最初の第一歩はそんな感じでした。しかし、同じアトピー性皮膚炎でも、どの部位に、どのような形、固さ、熱がこもっているか、何か汁がでているか、全体の体調はどうなのか?便通は?生理は?汗の具合は?そういったことをまとめて考えて、漢方薬を選びます。
「からだの不調」「原因不明の疲れ」など、原因のわからない病気や、なぜそうなっているかが明らかでないときや、原因や理由がわかっていてもほかに治療法がない場合、あっても副作用に耐えられない方、または多くの病気があり、西洋薬を多数を服用する必要のある方など、漢方薬単独、または西洋薬との併用で効果がでやすいです。
私が女医であるということもあり、多くの女性患者さんの診察をさせていただいております。女性は、初潮、月経不順、不妊、更年期障害など、多くの山を乗り越えていきます。私は婦人科専門ではありませんが、ニキビ、酒さ、アトピー性皮膚炎、他皮膚慢性炎症性疾患とこのようなホルモンバランスは強く関係しており、例えばニキビを治すために、ホルモンバランスを整える漢方を服用していただいたら、ニキビも治るとともに、生理痛や月経不順も改善され、喜ばれたりと、処方する側とすれば、それを目的ともしているのですが、患者様からすれば、「思わぬギフト」となることも多いですね。
アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、だけではなく、食欲不振、虚弱体質、またはお子さんも自律神経の乱れなどよく起こされます。私は一過性の病気には必ずしも漢方薬が必要だとは思いませんが、慢性的になってくる、徐々に症状が悪化してくる場合には早い目に体質改善されることが、「これから」が長い、お子さんにはベストだと考えております。
漢方の考え方、服用する漢方薬の種類など、中医学と、日本漢方では違うところがあります。日本漢方は、診断法や漢方薬の選び方をわかりやすく変化させ、日本人にあうように独自の発展を遂げてきました。しかし、中医学は、その学習は複雑ではありますが、そこに漢方哲学の根本があり、私は、上海中医学院を卒業し、国際中医師免許AAを所得し、中医学と、日本漢方の両方を駆使し、治療にあたっております。
西洋薬にその疾患を治してくれるものがない場合、漢方薬を駆使していくことになるのですが、本当にその漢方薬がどのような機序で、どのように効果を示していくのか、私は自ら研究をしております。
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